結果的にはキリンカップが助走になった、ということだろうか。
2軍と言ってもさしつかえないコートジボワールを1-0で退け、欧州組がひとりもいないパラグアイとスコアレスドローに終わった5月の2試合は、それでも、ワールドカップ3次予選の重要なシミュレーションになっていた。
とりわけ、岡田武史監督にとっては。
ヨーロッパのクラブでプレイする中村俊輔、松井大輔、長谷部誠の招集でほとんどニュースにならなかったが、キリンカップのメンバーにははっきりとしたメッセージが込められていた。マスコミから「オシム・チルドレン」と言われ、3月のバーレーン戦でもベンチ入りしていた羽生直剛と山岸智が、そろってメンバーからはずれていたのである。
そのうえで、コートジボワールを迎えた初戦では、中村憲剛、鈴木啓太、巻誠一郎がスタメンから漏れた。鈴木と巻はコンディションへの配慮もあったが、イビチャ・オシム前監督のチームで中核を担い、3月のバーレーン戦でも先発した3人のスタメン落ちは、メディアが「オレ流」と表現した岡田監督独自のカラーが打ち出されたことを示唆していただろう。オシム監督のチームからキャプテンをまかされてきた川口能活も、楢ア正剛にポジションを譲ることになった。
実際に岡田監督は、パラグアイ戦よりもコートジボワール戦の内容を評価していたと聞く。果たして、6月2日のオマーン戦のスタメンは、10人までがコートジボワール戦と同じだった。コートジボワール戦はチームに合流していなかった中村俊が、今野泰幸にかわったことが唯一の変化である。
キリンカップでチームをリセット
それにしても、思いきったものだ。
普通に考えれば、キリンカップの2試合はメンバーをあまりいじらないはずである。プレイ時間が長いほどコンビネーションは熟成されるし、先発と控えの区別も明確になる。選手個々の立場が早い段階ではっきりしたほうが、チームは落ち着くものでもある。
フランスW杯を約1ヵ月後に控えた1998年のキリンカップでも、岡田監督はテストを含んだ選手起用をしている。ただ、過去に招集したことのある選手が先発へ昇格したもので、長友や寺田のような驚きの抜擢ではなかった。キリンカップからワールドカップの間には、2試合のテストマッチが用意されていた。オマーン戦が目前に迫っていた今回とは、少しばかり状況が違っていた。
正直に告白すれば、「キリンカップでテストをしている場合じゃない」という思いはあった。バーレーンに負けたショックをぬぐうには、不安要素を可能なかぎりとり除いてオマーン戦を迎えるべきで、誰が先発するのかわからないような選手起用をしていては、逆に不安が増してしまうと考えていた。
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飛車角落ちの相手だったキリンカップだが、結果的にはその位置づけは正しかったことになる。あとは、この戦いぶりを持続できるか。
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雨中の日産スタジアムで3-0の快勝をおさめたことで、キリンカップの位置づけは正しかったということになる。海外組を含めたコンビネーションは思いのほかにスムーズで、ボールを持った選手がパスの出しどころに迷う場面はほとんどいなかった。ダイレクトのパスワークも見られ、今後への期待をふくらませながら勝ち点3を確保したと言える。
豊田スタジアムと埼玉スタジアムで2試合連続フル出場した長友佑都は、オマーン戦でも先発に指名された。コートジボワール戦で国際Aマッチにデビューした香川真司は、オマーン戦で後半途中から起用された。パラグアイ戦で国際Aマッチデビューを飾った寺田周平も、日産スタジアムのベンチに入った。
岡田監督による彼らの登用は、キリンカップがW杯予選を念頭に置いたテストだったことを裏づけている。同時に、鈴木と阿部勇樹が控えの7人に入らなかったのは、キリンカップからのリスタートを印象づけたと言っていいだろう。
「いろいろなテストをする中で、ここからの4連戦(W杯予選)では、どういう選手が出ても最低限のことができるという手ごたえをつかみました」
パラグアイ戦後の記者会見で、岡田監督はこう話している。「最低限」の「手ごたえ」では心もとないと思っていたのだが、とにもかくにもキリンカップがきっかけとなり、チームが好転してきたのは間違いないようである。 |