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[憎悪渦巻くクルヴァ]社会問題に根ざすスタジアムの暴力
文:高橋 在 写真:高橋 在 Date:2007.4.16
 その光景は、すさまじかった。火炎瓶を投げ込まれたパトカーが真っ赤に燃え上がり、10数メートル先には、すでに焼滅した乗用車が横たわっていた。少し離れたところに止めてあったぼくの車は、遠くから見る限り燃やされていないようすだったが、近づいてみてビックリ。フロントガラスを含めて窓は全部割られ、ボディがべコベコに凹んでいた。

 ちなみに、ぼくは戦場カメラマンとかではなく、サッカーの写真を撮っている者だ。上記の話は、セリエA00-01シーズンの、ナポリvsローマ戦直後のこと。試合が終わってスタジアムを出たら、このような状況だったのだ。

 ゲームが始まる前から、スタジアム周辺で両チームのサポーターが競り合いを起こし、警察が発砲した催涙弾の煙は、観客席、そしてピッチサイドにも回っていた。試合中は、ホームのナポリファンがビジター専用の席に、尿の入った風船やネズミの死骸、そして新聞紙で包んだ糞などをくり返し投入。試合終了後は、スタジアム外のあちこちで暴動が発生し、ナイフで刺されたローマファンを運ぶ救急車がナポリ人にとり囲まれ、抵抗しようとした看護士が袋だたきにされる、などの事件さえも記録された。サポーターと警察の激突も相次ぎ、数台の車がひっくり返され、放火された。スタジアム周辺はまさに、戦場と化していた。ローマファンは電車でナポリをあとにする際に、報復の意味で駅や車内を片っ端から破壊していった。

クルヴァはストレス発散にもってこいの無法地帯
 今季、セリエAのカターニアvsパレルモ戦の際、警官が命を落とした事件は世界中で報道され、注目を浴びた。「スタジアムでの暴力が急激にエスカレートした」と言われたが、実はこれ、今になって始まったことではないのだ。しかし、「ラテン民族はサッカーとなると熱くなるから、暴動が起きるのもおかしくない」という見方ではすまない。各スタジアムのゴール裏、いわゆるクルヴァに陣取る過激派サポーターの一部は、実際はサッカーにまったく関心がなく、ただ騒ぎを巻き起こすためにスタジアムに足を運ぶ連中だ。職も希望もなく、フラストレーションに満ちた日常を送るこの若者たちにとって、クルヴァはストレス発散にもってこいの無法地帯なのである。そもそもサッカーに興味がないため、彼らには我がチームの名誉のために尽くす、などという思想はない。試合はただの口実で、とにかく、相手は誰でもいいのでケンカを売りたい、買いたい、暴れたい、ぶっ壊したい、だけなのである。こんな“人材”があふれるところに、暴力団や、極右の過激派グループが入り込んでいるのも事実。こういった組織にとってクルヴァは、手軽に人手をスカウトでき、そして警察や国に対する憎しみ、不信感を大胆にアピールできる、絶好の場なのだ。

クルヴァには破壊的な衝動にとりつかれた者も少なくない。来季からスタジアムの警備体制が変わるが、果たして効果のほどは……!?
(C)高橋 在
 来シーズンからイタリアでも、スタンドの警備は今みたいに国家警察ではなく、クラブに雇われたスチュワードが全面的に管理することに決まった。「フーリガン問題を解決したイングランドのようにする」のが目的とのことで、チャンピオンズリーグのローマvsマンチェスターU戦で見られた、警官がサポーターを無差別に殴るようなシーンもなくなることだろうが、多くのトラブルがスタジアムの外で起きることを考えると、これですべてが解決されるはずがないと思う。そもそも、スタジアムに限ることなく、社会全体で「暴力のエスカレート」が見られるのではないか。英国では、サッカーの試合では暴力事件が起きないかもしれないが、ストリートでは少年同士の殺し合いが相次いでいると聞く。イタリアでも、駐車スペースのとり合いが殺人に発展したとか、騒がしいご近所さん一家に耐えられなくなった中年夫婦が、その家族を計画的に暗殺した、という事件などが増えている一方。

 なんとかせねばなりませんな、この世の中。

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