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[ベンゲルの慧眼]“アンリ後”へ動き出したアーセナル
文:粕谷秀樹 写真:Second Wind Date:2006.12.24
 アーセナルのアルセーヌ・ベンゲル監督は、将来の布石を打っているのかもしれない。いずれ訪れるティエリ・アンリ脱退のときを見すえて、チーム改造に着手したと考えるべきだろう。

近年のアーセナルの成功はアンリの活躍によるところ大だが、両者の決別は既成事実ととらえるべきなのかもしれない。
(C)Second Wind
 アーセナル、いや、ベンゲルには彼なりのルールがある。30歳を超えた選手との契約は1年。複数年契約には応じない。今シーズンも通例に従い、ロベール・ピレスをスペインのビジャレアルに放出した。デニス・ベルカンプが引退したにもかかわらず、アンリのベストパートナーともいうべきピレスの慰留には努めなかったのである。また、今シーズン終了後にはイェンス・レーマンの退団も決定的だ。決して万全とはいえないGKだけに、ベンゲルも未練はないだろう。

 こうした事実にのっとって判断すると、アンリもベンゲルとアーセナルに別れを告げるときが必ずやってくる。契約が切れる2年後はまだ32歳。ユニホームを脱ぐ年齢ではない。1年でも長い現役生活を希望し、複数年契約を最大条件とする交渉を進めるはずだ。しかし、ベンゲルが特例を認めるだろうか。たしかにアンリは貢献者だ。近年のアーセナルの成功は、ひとえにアンリの大活躍によるもの、と表現して差し支えないだろう。

セスクとともに新アーセナル牽引する有望株たち
 ただ、ベンゲルは非常にドライだ。日本では情に厚いといわれているが、チームづくりに関しては妥協を許さないタイプの監督である。前述したピレス、レーマンだけでなく、3シーズン前にはシルバン・ビルトールも簡単に手放している。リヨンに推薦したとの情報もあるが、必要・不要を即座に判断する冷徹な決断力を持ち合わせていることは間違いない。

 その日は必ずやって来る。アンリとの決別は既成事実ととらえるべきなのかもしれない。だが、組織には新陳代謝が必要だ。あたらしい血の導入を怠っていると、その組織は必ず崩壊する。5年以上もスタッフの顔ぶれが変わらない組織は勤続疲労を招く。パオロ・マルディーニとカフーに頼り続けたACミランは、すっかり落ちぶれてしまった。

  そしてベンゲルも、名古屋グランパスエイトからアーセナルに着任した当初は、前後左右の動きにもろくなったベテランDFを押しつけられ、デイビッド・ベッカム、ポール・スコールズ、ライアン・ギグスなどが台頭してきたマンチェスターUに毎シーズン、煮え湯を飲まされた苦い過去がある。こうした経験に基づき、ベンゲルは改造に着手したのではないだろうか。

 さて、新チームの中心が、セスク・ファブレガスであることに疑いの余地はない。いや、今シーズンのアーセナルを“セスクのチーム”と表現しても差し支えないだろう。ワンタッチで視野を確保する的確なボールコントロール、ゴール前に飛び込む絶妙のタイミング、独特の風格など、ベンゲルの目に狂いはない。しかも、まだ19歳の若さだ。

 また、エマヌエル・エブエとロビン・ファン・ペルシーも23歳、噂のテオ・ウォルコットに至っては17歳! さらに、バーミンガム・シティにローン移籍したニコラス・ベントナー、スコットランドのフォルカークで武者修行中のアンソニー・ストークスは、ともに18歳の有望株である。彼らもセスクとともに新しい時代を牽引するだろう。

 今シーズンのアーセナルは無冠に終わるかもしれない。プレミアシップでは首位マンチェスターUと2位チェルシーとのポイント差は2桁(17節終了現在)に開き、挽回は不可能になりつつある。昨シーズンは準優勝という予想外の大成功をおさめたチャンピオンズリーグでも、ライバルたちの充実度に比べると見劣りする。しかし、長期的な展望で判断した場合、一歩も二歩も先んじているのはアーセナルだ。明日に向けて着々と準備するベンゲルのチームだ。

 名将の“慧眼”に導かれた若者たちの才能は、間もなく開花するに違いない。“アフター・アンリ”が楽しみになってきた。

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