指揮官がチーム内の競争を促すのは当然だし、戦力のレベルアップのためには必要なことだ。だが、オリバー・カーンがドイツ代表のユルゲン・クリンスマン監督から受けた仕打ちには同情を禁じえない。
クリンスマン監督はイェンス・レーマンに正GKの座を与えた理由をこう説明している。
「どちらを正GKとして起用するかについては詳細かつ多様な側面から検討してきた。かなりの接戦で、1年前はオリバーのほうがわずかにリードしていたが、昨季末にイェンスが大きく挽回し、現在ではオリバーをリードしているとの結論に達した」
カーンの地位をはく奪した決定的な理由は、3月22日に行われたアメリカとの親善試合で4-0の完封勝利を目前に、カーンの判断ミスから1点を失ったことにあるようだ。ならば、レーマンがゴールマウスに立ち1-4の大敗を喫したイタリア戦(3月1日)はどう評価しているのだろうか。
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4年前の横浜で屈辱を経験したカーン。母国で開催されるワールドカップでリベンジしたかったはずだが――。
(C)STUDIO AUPA |
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たしかにレーマンは昨季のFAカップ決勝では優勝の立役者となり、キレやすくポカが多いという評価を改めさせた。今季もチャンピオンズリーグ準決勝進出に貢献している。かねてから同じ36歳のカーンをライバル視し「オレのほうがすぐれている」と自負しつづけていた。
だが、リフレクションでもアジリティでもカーンをしのぐとは思えないし、カーンにはレーマンには及びもつかないキャプテンシーがある。ロベルト・フート(チェルシー)、アルネ・フリートリヒ(ヘルタ)、フィリップ・ラーム(バイエルン)、ペル・メネテザッカー(ハノーヴァー)などで構成されるドイツの守備陣はぜい弱で、カーンのコーチングや闘争心を頼りにしているはずだ。
レーマンがレアル マドリー、ユヴェントスを相手にした4試合を無失点に抑えたといっても、レアル マドリーはフロレンティノ・ペレス前会長の辞任騒動の渦中にあったし、平均年齢が30歳を超えるユヴェントスはコンディショニングに苦しみアーセナルのフレッシュなDF(最年長のコロ・トゥーレでも25歳)の活躍を許したという要因を加味して考えるべきだろう。さらにいうなら、今季のアーセナルはチェルシーからおよそ30ポイントも引き離され、ストレートインはおろかチャンピオンズリーグ出場権の確保も危ない順位に位置しているにすぎない。
将たる者の役目をはき違えたクリンスマン
EURO2004のあとに就任したクリンスマン監督は、なぜかGKにローテーションシステムを導入した。もちろん競争はあってしかるべきだが、チームの要ともいえるGKのポジションをわざわざ流動化させたのは理解できない。チームに変革を促すにしても、それならば明確な選択基準や選択期限を明らかにするのが筋ではないか。仮にもカーンは前回のワールドカップでドイツ準優勝の原動力となり、ベストプレーヤーを受賞した選手。年齢的にも代表でプレーするのはこれが最後になる。たとえ正GKに起用しないにしても、貢献者にふさわしい処遇がなされてしかるべき。それをギリギリまで競わせるとしたのは、あまりに礼を失した態度だ。プライドを傷つけられたうえ、何を証明しろと求められているのかもわからないまま、2年もただ競争を強いられたカーンが対処に困り、動揺したのも無理はない。生殺与奪を握る者はその力をもて遊ぶような行為をしてはならない。
そのうえクリンスマン監督が結果を伝えた4月7日というタイミングもカーンにとっては最悪。4月1日のケルン戦に引き分けてハンブルクに勝ち点7に迫られていたバイエルンは翌8日、アウェイでのブレーメン戦を控えていたのだ。クリンスマン監督の通告に落胆したカーンを落ち着かせるのはたいへんだったらしい。それでもいざ試合となればカーンは果敢にゴールを守ったが、バイエルンは折しもミハエル・バラックの来季離脱が確実となったことが明らかにされたばかり。チームは暗い雰囲気を払拭できず0-3の敗北を喫し、同節、勝利をおさめたハングルクとの勝ち点の差は4となり、ブンデスリーガ連覇ににわかに暗雲が立ちこめてしまった。
バイエルンのコマーシャルマネジャー、ウリ・ヘネスは「シーズン佳境の大事な試合の直前にわざわざ発表するなど信じられないことだ」と批判するが、クリンスマン監督は「(当初、5月になってから発表する予定だったのに)バイエルンが早く決定しろと言ってきたからだ」と平然。バイエルンはクリンスマン批判の急先鋒だったから、その報復かとうがった見方もしたくなる。
このまま代表を引退することもありえると思われたカーンだが、「失望はしているが、私がチームに対してできることはある。個人的な感情だけで判断すべきではない」と代表にとどまる意向を示した。こうした態度にはおそらく選手のなかにも同情的な者が多いだろう。クリンスマン監督は「オリヴァーにこの決定を伝えるのはかんたんなことではなかった」と話してはいるが、通告は冷ややかな態度で行われたという。現役時代はその冷酷さがゴールに結びついただろうが、組織を統率するにはそれだけでは足りない。もともと選手の支持が厚いわけではないだけに、このやり方ではチームがさらに不安定化するだけではないのか。“カーンはずし”はそれなりの覚悟があってのことだろうが、将たる者の役目をはき違えているとしか思えない。
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