ベルギーでひとつの裁判が始まった。ジュピラーリーグのシャルルロワが所属選手の代表召集中の負傷に対する補償をFIFAに要求しているのだが、ボスマン判決と同様、サッカーの将来に大きな影響を与えるかもしれないと注目されている。
 |
 |
 |
足首のじん帯を断裂、復帰まで8カ月余りの戦線離脱を余儀なくされたウルメルス。クラブと代表間にあつれきは高まった。
(C)Second Wind |
|
発端は2004年11月17日にモロッコのラバトで行われたブルキナファソとの親善試合で、シャルルロワに所属するモロッコ代表のアバデルマジド・ウルメルスが復帰まで8カ月以上の重傷を負ったことだった。シャルルロワは昨季好調だったものの後半に調子を落とし5位に終わっているが、この原因はウルメルスを欠いたことにあるとしてFIFAに補償を求めた。もちろんFIFAはウルメルスの負傷とシャルルロワがリーグ優勝を逃がしたことには何の関係もないとしてこれを拒否、交渉は物別れに終わった。そこでシャルルロワはFIFAを法廷に引っ張りだしたのだ。
従来、FIFAは代表召集中の選手の負傷については一切関知してこなかった。ウルメルスの場合も、欠場中のギャランティだけでなくその治療費もシャルルロワが負担している。主要な国際大会の収益の75%は各国の協会へ還元しているのだから、もし補償するにしても各国の協会の判断で行われるべきだというのがFIFAの言いぶんなのだ。
クラブと代表のあつれきはこれに始まったことではないのだが、今回は話が非常に政治的になっている。ヨーロッパのビッグクラブが構成するG14(アヤックス、ドルトムント、バイエルン、バルセロナ、インテル、ユヴェントス、リヴァプール、ユナイテッド、ミラン、マルセイユ、パリS-G、ポルト、PSV、レアル
マドリー、アーセナル、レヴァークーゼン、リヨン、バレンシア)がシャルルロワを支援しはじめ、ウルメルス裁判はFIFA対G14の代理戦争の様相を帯びはじめたからだ。G14は「法廷がシャルルロワを支持してくれれば、G14だけでなくすべてのクラブの利益になる」と支援理由を説明。「FIFAは代表召集中の選手の負傷を補償する制度をつくるべきだ」と主張している。
現在、FIFAの意志決定にクラブは関与することができないため、あらゆる決定はクラブの頭越しに行われる。そもそもオーガナイザーと商業権者が同一というのは独占禁止法に違反するのではないかといつも思うのだが、FIFAはすべて自分たちの利益になるようにすべてをとりきめられる立場にある。「クラブの同意もないとりきめを押しつけるのは不公平かつ非民主的だ」と憤るのはG14の事務総長、トマス・クルス。「選手の負傷に対してクラブと各国の協会に損害を押しつけるのではなく、FIFAが補償制度をつくるべきだ。また、所属選手が代表に召集された場合、クラブに補償金が支払われるべきだ」。
先鋭化するFIFAとG14の対立
もちろん正論ではある。しかし、こうした発言の裏には、もちろんFIFAばかりにおいしい思いをさせてなるものかというG14の思惑がある。FIFAは最近、ワールドカップの収益をクラブに還元してもよいとの懐柔案を示しているのだが、G14はそんなはした金をねらっているのではなく、収益構造を有利に変えようというのが目論見に違いない。
冒頭に言及したボスマン判決とは、1995年にベルギー人選手のジャン-マルク・ボスマンがUEFA相手に勝ちとった、移籍の自由に関するEU法廷による判決。“EU圏内のクラブ間で移籍する場合、契約切れであれば移籍金は発生せず、選手は自由に移籍できる”というものだが、これによって選手の契約期間と契約金は暴騰。クラブもそこはさる者。バイアウト条項を契約に盛り込み、契約期間内に移籍させることでより高く売りつける方法をとるようになった……のだが、こうして大枚をはたいて獲得した選手に代表戦で負傷されては元も子もないうえ、次にうまく転売できるかどうかもあやしくなってくる。そこで、こうしたリスクをヘッジするためにFIFAの上がりをかすめ取ろうとしているといえる。
こんなG14にFIFA会長のセップ・ブラッターは「強欲だ」といらだちをあらわにしている。「アフリカや南アフリカから略奪してきた選手でさらに金もうけをしようというのか」。ブラッターにも一理ある。もしウルメルス裁判がシャルルロワ勝訴に終わった場合、補償制度のあり方しだいでは代表召集がままならない国も出てしまうだろうし、選手の契約金はさらに高騰するだろう。クラブの二極化はさらに進み、また、選手のショウケースたる国際大会もダメージを受けるかもしれない。
とはいえ、FIFAとG14、どちらが強欲かは微妙なところだ。FIFAはヨーロッパのリーグにトップリーグに参戦するチームの数を16に制限し、試合数を減少させる提案を行っている。この意図は明白。リーグの日程が短縮されたぶん、FIFA主催の国際大会を開催しようとするに違いなく、G14も「カレンダーの決定はFIFAとクラブ間の合意に基づくべきだ」と釘をさしている。ところが、その反面、G14はチャンピオンズリーグの試合数の増加をUEFAに要求している。二次グループリーグがなくなり試合数が少なくなったことで収益減を強いられているからだ。
FIFAにせよ、G14にせよ、考えているのはお金のことばかり。お金を生み出す選手のコンディション増進などあと回しだし、すばらしい試合を期待して観戦するファンのことなど頭の片隅にもないのだろう。実はFIFAもG14も“サッカーの敵”なのかもしれない。
|