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[小笠原・新庄去りし後]北の大地に踏み出した、新たな一歩
文・写真:新熊康助 Date:2007.4.4
 昨年、44年ぶり2度目の日本一に輝いた、北海道日本ハムファイターズ。札幌に本拠地を移転してわずか3年目での栄冠は、地域と一体になってつかんだものだった。当初は、住民のほとんどが読売ジャイアンツファンという地域で、果たして人気を得られるのか心配もされた。しかし、Jリーグ・コンサドーレ札幌に続き、地元に応援すべきプロ野球チームが誕生したという事実は、北海道の人々の心を大きく動かした。今や、札幌の街を歩くといたる所でファイターズの文字が目に付く。地域をあげて応援しようという意識が定着したと言ってもよく、昨年の1試合平均の観客動員数は約2万3,000人と、東京ドーム時代と比べれば長足の進歩だ。

 3月24日。ファイターズは今年の開幕戦を千葉マリンスタジアムで迎えた。4-0とリードして迎えた6回。それまで被安打2に抑えていたダルビッシュ有だったが、ヒット2本と四球で満塁のピンチを招くと、5番・ズレータが甘く入ったストレートを一閃。ボールは強風を切り裂いてバックスクリーンの左へと飛び込んだ。試合はその後雨のため、7回で4-4のままコールドで引き分けに。しかし、負けに等しいと言える引き分けだった。

 翌日も投手戦の末、0-0で延長12回引き分け。続くオリックスとの3連戦では、28日に今季初勝利を挙げたものの1勝2敗と負け越し。開幕後1勝2敗2分と、何ともすっきりしない成績で札幌ドームの開幕戦を迎えた。

2つの「穴」
 日本一に観客動員数の増加と、札幌移転後の道のりは非常に順調に来ているように感じられる。しかし今年のファイターズは、これからの北海道でのチーム作りという点において、今後を占う非常に重要な局面にある、と言ってもよいのではないだろうか。

 昨年と今年、一体どこが変わったのか。それはやはり、今までチームを様々な意味で牽引してきた、小笠原道大、新庄剛志の2人が抜けたことに尽きる。そして、抜けたことの意味はそれぞれで違うことを認識しておかなければならない。まず、小笠原という不動の3番打者の流出は即、得点力の低下を意味する。フルスイングを身上とし、昨年は本塁打、打点の2冠を獲得。それでいて首位打者のタイトルも過去2回獲得しており、その功績、そして打席での存在感は、並の打者が例え何人いても埋め合わせることは出来ない。新庄の場合はご存知のように、常にメディアとファンに話題を提供してくれるパフォーマンスの影響力が大きかった。

 この2つの「穴」をどう埋めるのか。ファイターズは「補強しない」ことを選択した。基本的に、小笠原以外に長打を期待できるのは、セギノールに加えて稲葉篤紀の2人。普通なら、もう1人長打力のある外国人を、ということにもなるが、開幕戦では昨年5番の稲葉を3番に、5番には木元邦之を据えた。その他のメンバーもほぼ現有戦力のみ。安易な補強に頼らず、自前で次のスターを育成したい、という意識の表れだろう。

「ポスト新庄」としての期待がかかる森本稀哲。個性的な風貌が人気だが、成績面でも一層の成長を期待したいところだ。
(C)Kohsuke Shinkuma
 その中で「ポスト新庄」としての期待がかかっているのが、背番号「1」を受け継いだ森本稀哲だ。子供の時に体の毛が抜け落ちる原因不明の病気にかかり、克服した現在でもスキンヘッドで通している森本は、独特の風貌で人気がある。そんな森本を、新庄は自分の後継者に指名した。森本自身も自ら積極的にパフォーマンスを発案したりと、これまでの路線を継承しようとしている。そのためメディアやCMなどへの露出も増加し、今や新しいファイターズの「顔」として、広く認知されつつある。

 森本は帝京高校のキャプテンとして98年に甲子園に出場し、同年ドラフト4位でファイターズに入団。元々打撃と守備には定評があったが、1軍に上がってもレギュラー定着までには至っていなかった。出場機会が増えたのは05年からで、昨年は1番として定着。打率.285、9本塁打、42打点と自己最高の成績を収めた。しかし107個という三振の多さが気になるのに加え、1番打者として重要な出塁率は.343。持っているポテンシャルの高さを考えれば、数字的にはまだまだ物足りないと言える。今年で9年目を迎え、ややベテランの域に入ってくるが、人気・実力両面でチームを牽引する存在へ、さらなる成長を遂げることが出来るだろうか。

8試合目でのホーム初勝利
 3月30日。平日のナイターであるのに加え、時折雪がちらつく天候にもかかわらず、札幌ドームには朝から長蛇の列ができ、ライトスタンドの一角のライオンズファンを除いて、ファイターズファンが球場をほぼ360°埋め尽くした。もう恒例となった試合前のパフォーマンスだが、今回はスタメンの選手を乗せたリムジンがグラウンドに登場。中で選手がトランプをしている映像が流れると観客からは大きな笑い声が。やがてグラウンド中央にリムジンが止まると、中からはそれぞれの守備位置へと選手たちが駆け出して行った。

 先発はダルビッシュ。開幕戦の雪辱を果たしたいこの試合だったが、3回にショート・金子誠の不運なエラーで先制を許し、4回には和田一浩にソロを浴びて0-2。その後は徐々に調子を上げ、最終的に9回を投げ切って14奪三振。ただそれ以上に、今年の新人王候補に挙がっている西武の先発・岸孝之のスライダーの切れが良く、8回までで散発5安打、無得点に抑えられた。たった2点が、遠く感じられた。

 9回裏、西武は抑えの小野寺力が登板。これで流れが変わった。1死から6番・高橋信二と代打・稲田直人が連続ヒット。ランナー1、2塁の場面で、代打・金子洋平が2球目のスライダーを叩き、レフトフェンス直撃の2塁打。1点を返して1死2、3塁、サヨナラのチャンスで、9番・金子誠はセカンドゴロに倒れる。続く森本は初球に手を出して、ボテボテのピッチャーゴロ。万事休すかと思われたが、持ち前の俊足で送球より一瞬早く1塁ベースを駆け抜けた。内野安打で2-2の同点、なおも2死1、3塁の場面で、2番・田中賢介はセカンドゴロ。試合はファイターズにとって早くも今シーズン3回目の延長戦に突入した。

ホーム開幕戦の延長12回裏、2死満塁で打席には稲葉篤紀。時計の針は既に午後10時を回っていたが、「稲葉ジャンプ」にスタンドは大きく揺れた。
(C)Kohsuke Shinkuma
 10回以降は両チームとも継投で、再び試合は膠着状態になった。12回裏、先頭の森本がセンター前ヒット、続く田中は送りバントを決め、この日3番に座った坪井智哉は死球で1死1、2塁。再びつかんだサヨナラのチャンスだったが、4番・セギノールはファールフライに倒れ2死。打席には5番・稲葉。この時、既に時計は午後10時を回っていた。しかし、稲葉の応援時に観客が一斉にジャンプする「稲葉ジャンプ」は、ホーム初勝利への願いを乗せて、いつもと変わらず、いやそれ以上にスタンドを揺らした。スタンドを見回してみると、この試合の行く末を最後まで見届けるため、観客はほとんど帰っていなかった。3球ボールの後、カウントは2-3。最後は西武・長田秀一郎が投じた渾身のストレートに、稲葉のバットは空を切った。あと1本で勝利を逃したが、9回裏に追いつく粘りを見せ、勝ちに等しい引き分けと言っていいだろう。それに加えて、ほとんどのファンが最後まで試合を諦めずに球場に残っていたという事実は、結果以上にチームにとって大きなものではないだろうか。

 翌日は先発・グリンが5回に2点を失った後、7回にはカブレラの本塁打などで大量6失点。打線はその裏にヒット4本を集中させ3点を返したが、3-9の完敗。またもホーム初勝利はお預けとなった。

 4月1日の第3戦は、今季リリーフから先発に転向した建山義紀が、6年ぶりの先発登板となった。「リリーフとは違う緊張感がありました」という中で臨んだマウンドだったが、初回の先頭打者・福地寿樹の打球は左中間深くへと飛んだ。いきなりピンチか、と思ったその時、背走して打球を追っていたセンター・森本がジャンピングキャッチ。守備に助けられた建山は、時折ランナーを出しつつも要所を締めるピッチングで、6回を5安打無失点。打線も1回に坪井のタイムリー、3回には稲葉の3ランで4点を挙げて援護した。

今季から先発に転向、西武打線を6回無失点に抑えた建山義紀(写真左)と、1号3ランを含む4打点を挙げた稲葉(同右)の活躍で、ようやくホーム初勝利。
(C)Kohsuke Shinkuma
 しかし7回表、リリーフの武田久が死球とヒットで2点を失い、なおも1死満塁のピンチ。2塁ランナーが帰れば同点となり、建山の勝ち星が消えてしまう状況で、2番・片岡易之の打球はセンター前へ。同点かと思われたその時、転がるボールの先には森本がいた。うなりを上げた強肩から、元来た方向へと一直線に放たれたボールは、ノーバウンドのストライク返球となって、キャッチャーミットに吸い込まれた。2塁ランナーは本塁タッチアウト。森本が、またもチームを救ったのだった。武田久は続く中島に再び死球を与えたが、カブレラを三振に抑え、何とかこの回を乗り切った。その後、7回、8回と1点ずつ追加したファイターズが、6-3でホーム初勝利を挙げた。開幕戦から続いていたもやもやが、これで一気に吹き飛んだような感じがした。

 2つの「穴」。それを埋め切れていると言えば、おそらく嘘になるだろう。3番、5番はその時の調子によって使い分けているのが現状であり、新たなスター選手はすぐには育つべくもない。しかし、安易な補強に頼らず自前の選手で戦い、その中で選手が成長していく過程にこそ、スポーツを見る楽しさ、おもしろさが凝縮されているのではないか。例え優勝できなくても、北海道のチームとして明確なメッセージを発することが出来れば、ファンは決して離れることはない。地域と、ファンと、どのような関係を構築することが出来るかという意味で、今シーズンは非常に重要な意味を持つと言えるだろう。必要なのは、何より選手自身の努力とファンの熱意だ。

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