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Text by Second Wind 2003年11月28日
11月28日、加藤大治郎選手事故調査委員会(委員長/景山一郎 日本大学生産工学部教授 委員/今泉博英 元東京大学大学院工学系研究科助手・現日本大学非常勤講師、片山硬 日本自動車研究所安全研究部主管・主任研究員、恒成茂行 熊本大学大学院医学薬学研究部法医学分野教授、難波恭司 WGPレース解説者・元GPライダー)が都内で調査結果の報告を行った。 事故調査委員会は、関係者への聞き取り調査や事故車両、車載データのチェック等の結果、事故は大治郎選手のバイク操作と鈴鹿サーキットにおける130Rとシケイン改修によるレイアウト変更の影響、バリアの構造と設置方法の不備が複合して引き起こされたと発表した。 また、フロントディスクに破損はあったものの、これは衝突時に発生したもので、他にもバイクの異常は認められなかったとし、噂されていたようなブレーキトラブル等は否定。他のバイクとの接触もなかったとしている。 大治郎、生命を賭けた2秒間 事故の発生した3周目、130Rの立ち上がりからシケイン進入のブレーキングの間に、大治郎選手のバイクはまずハイサイドが発生。それに続いてウィーブモードという振動現象を起こす。バイクは激しくロールし、大治郎選手は完全にコントロールを失い、約170km/hでコース中央から左側へとコースオフしてしまう。 だが、シケイン手前のグリーンゾーンはわずか200〜250cmしかない。しかも、大治郎選手がコースオフしたすぐ先は、コースの下に一般道が走っており(KONAMIの看板あたり)、そこに架けられた橋になっているため、シケインに向かって徐々に狭くなっている。大治郎選手はタイヤバリアに約150km/hで接触、タイヤバリアを擦りながら進んでいく。そして、タイヤバリアに続くスポンジバリアに約140km/hで衝突。スポンジバリアに頭からめり込み、その反動で身体が跳ね上げられた衝撃で後頭骨環椎(頭蓋骨と頚椎をつなぐ関節部分)を脱臼。この結果、椎骨の動脈が損傷し、死因である脳幹梗塞を起こすことになってしまった。 ウィーブモードが発生してから衝突するまでの時間は、わずか2秒。しかし、この間にも大治郎選手はなんとかリカバリーしようとしたことが車載データ等から推測される。大治郎選手の左手グローブには、手のひらの面にタイヤバリアのものと考えられる赤色の塗料が着いていた。これは衝突の瞬間、左手で衝撃を防ごうとしたものと考えられる。大治郎選手は、最後まであきらめずに全力を尽くしていたのだ。 限界を越えたのか!? 大治郎 ファンが最も知りたいのは、なぜ大治郎選手ほどのライダーがこれほど重大な事故に遭遇したのか、ということだ。事故調査委員会の説明によると、あの日、予選11番手からのスタートとなった大治郎選手は、序盤から激しいライディングでベイリス、チェカ、宇川と4位を争っていた。ロッシ、ビアッジ、カピロッシのトップ集団に早く追い着きたい大治郎選手は、130Rの進入でインを突く。通常より速いスピードでコーナーに進入したため、大治郎選手はバイクのバンク角を大きく保ったまま130Rを旋回することになり、コーナーの立ち上がりでも、まだバイクはかなり寝た状態だった。 ここからシケインの進入に備えてブレーキングを始めなければならないが、大きなバンク角のままブレーキングを始めたために、後輪が右側に滑ってしまう。十分な減速ができなかった大治郎選手は、フロントブレーキをかけ足しながらシケインへの切り返しを行ったが、リアタイヤが滑った状態でのこの操作によって、大治郎選手のバイクは軽いハイサイドを起こす。 そこで、大治郎選手はフロントブレーキを緩める。減速時のハイサイドを回避するにはリアタイヤの荷重を増やすことが必要だからだ。ところが、この操作でコーナリングフォース(バイクを安定させる力)を取り戻したリアタイヤは、今度はウィーブモードを発生させてしまった。 制御できないほどのウィーブモード ウィーブモードとは、二輪に固有(バイクに限らず自転車でも発生する)の振動で横方向の運動、ヨーイング(車体がコマのように回転する動き)、ローリング(車体が外側へ傾く動き)が複雑に重なり合った慣性運動で、それ自体は一般に起こり得る現象。実際、このレース中、宇川のバイクも130Rからシケインにかけてウィーブモードを発生させている。しかし、大治郎選手を襲ったウィーブモードは、左右に1.2Gという強さで発生し、ライダーを振り落とさんばかりの激しいロールとなって現れた。それはなぜか。 ウィーブモードが発生する直前にハイサイドを起こしていた大治郎選手は、ライディング姿勢を崩し、身体を支えるためにハンドルの左側を強く持つことになった。だが、実はこの動きがウィーブモードを激しくしてしまう原因なのだ。ウィーブモードが発生した状態でライダーがハンドルを強く握ると、ハンドルの動きが抑えられた反動によってフロントタイヤのコーナリングフォースも乱れ、ウィーブモードはかえって激しくなってしまうからだ。 リカバリーするための操作が事態を悪化させるという皮肉。大治郎選手はライディング姿勢を立て直すこともままならなくなってしまった。身体が左側に落ちたまま、バイクにしがみついているのがやっとの状態では、リアブレーキをかけることはできない。こうしてバイクのコントロールを失い、減速もできないままコースオフしてしまったのだ。 サーキット改修の予期せぬ盲点 もう一つの疑問は、なぜ130Rからシケインへのストレートという、考えられない場所で生命に関わる事故が発生したのかということだが、事故調査委員会の説明によると、あの部分は実はかなり危険な場所に変わっていたのだ。 鈴鹿サーキットは、今季、安全性の向上のために130Rとシケインを改修した。130Rはエスケープゾーンを拡大するために全体に内側へ移動し、85Rと340Rの複合コーナーになった。コーナー立ち上がりは緩やかになり、MotoGPの場合で130R出口のスピードはこれまでより約20km/h速くなっている。さらにシケインが130R側に65m移動され、130Rからシケインまでが短くなっている。 つまり、この部分は短い距離で加速から減速を行うことが必要となり、さらに二輪の場合、130R立ち上がりからシケインに向けて高速のS字をターンするときのような切り返しが要求されることになり、技術的に難しくなっていた。それに対し、エスケーブゾーンはないに等しいほど狭いまま。しかもコースオフした場合に最も接触の危険が高い場所が、前述の通り、特に狭くなっているのだ。 バリアの構造と配置が事故を重大化 さらに事故を重大なものにした原因は、バリアの構造と配置にある。この部分のバリアはタイヤバリアとスポンジバリアが使用されており、グリーンゾーンが狭くなるところまではタイヤバリアが配置され、狭くなった先は、約120cmの間隔をおいて、スポンジバリアが配置されている。 大治郎選手はまずタイヤバリアに接触しているが、約16.5度という浅い角度だったため、バイクに乗ったままタイヤバリアを擦りながら進んだ。しかし、タイヤバリアとスポンジバリアの間の約120cmの隙間のため、スポンジバリアに衝突してしまったのだ。しかもスポンジバリアであったため、大治郎選手の頭はその中にめり込んでしまい、身体だけが跳ね上げられたために頚椎に致命的な損傷を負ってしまったのだ。大治郎選手はこのスポンジバリアへの衝突時に、すでに脳死状態に陥っていたと考えられている。 もしタイヤバリアとスポンジバリアの間に隙間がなかったら、もしタイヤバリアがずっと続いていたなら、結果は違っていたと思われ、もしかしたら我々はまだ大治郎選手の笑顔を見ることができたかもしれない。来季、鈴鹿でのWGPはキャンセルされたが、妥当な措置と言わざるを得ない。 原因が完全に解明されたわけではない 大治郎選手の事故は悪条件が重なり合った、まれな事故であったことが、事故調査委員会が導き出した結論から分かった。それでもなお原因が100%解明されたわけではない。例えば、ウィーブモードが発生した時点でクラッチが切れていることが分かっているのだが、これが大治郎選手の操作によるものなのか、バックトルクリミッター(急激なシフトダウン時にリアタイヤがホッピングしないようにクラッチを滑らせる装置)によるものなのかは不明なまま。このこととウィーブモードの激化との関係も分かっていない。 MotoGPクラスのモンスターバイクを操るGPライダーは限界ギリギリで走るし、多少のトラブルは完全にコントロールできる。事故のきっかけとなったタイヤのスライドなど日常茶飯事なのに、なぜコントロールできないような状態にまで発展してしまったのか、いまひとつ割り切れない。事故調査委員会の調査結果は確かに事故の詳細については明確することができたのだが、最も根本的な原因を特定することは難しいようだ。 サーキットの安全基準とMotoGPマシンのレギュレーション見直しも 事故調査委員会は、二輪の振動現象の解明、安全なバリアの開発、そしてライダーの頚部を保護するライディングギアの開発をさらに進めることを提言している。特にFIMにはバリアの設置に関する統一された安全基準がないため、これを規格化することを求めている。 また、MotoGPマシンについては事故調査委員会の提言はなかったが、この調査結果の報告とは別に行われたHRCの金澤 賢社長は、「MSMA(Motorcycle Sports Manufacturers' Association)の中で、マシンを含めたレギュレーションの見直しを検討していく。サーキットについても、ホンダ関連のサーキットについては改修などの対応策を考えていく」と話している。 この不幸な事故がむだに終わらないよう、関係者が一層安全性に配慮したレースの運営に取り組んでほしいものだ。最後に改めて加藤大治郎選手のご冥福をお祈りいたします。
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