F1は夏休み期間に入ったが、水面下ではさまざまな動きや憶測がなされている。
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“ファイティングファンド”設立に熱心だったのは、ダイムラークライスラーとBMWだけだったともいわれている。
(C)BMW |
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まずエンジンホモロゲーションと呼ばれている問題については、最終的にFIAがエンジン開発の全面凍結を強行する形で一応の決着を見た。*この件については、『F1第12戦ドイツGP(後編)』にくわしく紹介されている。これにあえて補足するなら、FIAが強行せざるをえなかった背景には、自動車メーカー間がいつまでたっても意思統一をできなかったという点が大きい。“ファイティングファンド”についても自動車メーカーの対応はお寒い状況だった。指名入札のように競争法に抵触するおそれがあるという問題もあったが、それ以上に自動車メーカー間の態度のバラツキがでてしまっていた。あるところは積極的なファンドへの出資を表明する一方、あるところは「関係ない」として共同声明からの離脱を表明し、またあるところはカネを出すことになると態度がはっきりしなくなるといったぐあいだった。
2008年からの新エンジンルール導入には、本来なら2005年12月31日にはルールが決定されていなければならなかったはず。それを期日の繰り延べに繰り延べを重ねてここまできてしまっていた。だれかがどこかで線をひかない限り、どうにもならないままずるずると2007年を迎えかねない。FIAのマックス・モズレー会長が強攻策に出たのはすべてが賞賛されるかどうか別としても、いたしかたなかったところだろう。
GPMAからはトヨタの撤退が明らかになった。すでにGPMAはその役割を終え、当初の目標だったエンジンメーカーの発言力と収益金分配率は向上した。トヨタの決定は、これ以上のFIAとの摩擦を避けようという判断なのだろう。これでGPMAを構成するのはBMW、ダイムラークライスラー、ホンダ、ルノーとなったが、ルノーは曖昧なスタンスをつづけている。F1の安定した運営も目標に掲げたGPMAだったが、その安定しない態度が問題となりつつあり、もはやGPMAは存在意義を失いつつあるといえる。
F1チームはうさんくさい山師の集団か
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ディレクシブが明らかにした親会社、アキヤマホールディングスは投資ファンドとしてかなりきわどい手口を用いていたとされる。
(C)Second Wind |
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ヨーロッパと日本では、ディレクシブのモータースポーツからの撤退が発表された。ディレクシブは、ジャン・アレジとともに2008年のF1参戦を目ざしてエントリー申請していた。しかし、FIAは審査の結果デビッド・リチャーズのプロドライブを2008年の新規F1参入チームとして承認した。プロドライブはF1用といわれる新規工場の建設も地元自治体の承認を得て順風満帆だ。ディレクシブは、F1参戦という大目標を失い、モータースポーツへの熱も投資も冷めてしまった。
このディレクシブは、どのような企業なのかいまひとつ詳細が見えなかった。そこからなにやらミステリアスな存在というイメージがメディアにはあったようだ。だがこれはあくまでウワサレベルのイメージであり、だれも詳細に調べたわけではない。ただ、今となってはもう調べる必要もなくなってしまったが。
こうしたウワサレベルのイメージから、一部のメディアでは「またF1にミステリアスなカネとチームが来る」という声がささやかれていた。そして、自動車メーカーは立派な企業でも、F1チームは元々うさんくさい山師の集団だという声もある。
現在の主要F1チームは、70年代から80年代あたりに源流がある。これらのチームやチーム代表の多くは、零細な企業だったチームを多額なマネーが動くビジネス集団に育てあげてきた、らつ腕ぞろいだ。とくに、バーニー・エクレストン、ロン・デニス、フランク・ウィリアムズはその筆頭だ。また、もともとビジネス界での経営手腕を買われて入ってきたフラビオ・ブリアトーレもいる。いずれも、F1の外から否定的な目で見れば、個性的なところは「クセの強い存在」となり、そのらつ腕ぶりは時として「強引」ともなるだろう。FIAのモズレー会長もかつてはマーチチームの設立役員であり、F1のチームの団体だったF1CA(のちのFOCAで現在はFOMなど)の役員でもあった。こうしたチーム代表とFIAのモズレー会長ほど、F1の長期的な将来を考えている者はいないだだろう。ブリアトーレは別としても、いずれも常に薄氷を踏む思いで零細なチームを経営した苦労を知っている。そして、自分だけでなく、チームにかかわって暮らす人たちの生活のことを考えている。きわめて専門的な世界のなかで、現在と将来の生活がかかっているから、時として強い主張もする。だが、それは外部の人から見れば「強引でうさんくさい」ともなるのだろう。
メーカーのモータースポーツ活動は役員会や株主総会しだい
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モータースポーツへの情熱は自動車メーカーのDNAとして存在しても、現実的には役員会や株主総会の決定に従わざるをえない。
(C)DaimlerChrysler |
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一方、自動車メーカーはどうだろうか。自動車レースの歴史のなかで自動車メーカーの果たしてきた役割は大きかった。だが、自動車メーカーはいつも「移り気な」存在だ。
参戦してきて、戦いと技術の質とコストを高めては、活動を休止したり撤退したりするところも多かった。ITC(国際ツーリングカー選手権)や世界メイクス(メーカー)選手権がかかったスポーツカーレースは、まさにこうした自動車メーカーの移り気な性格で消滅していった。
かつての自動車メーカーは、個性的な創業者社長らがいて自動車レースを大切にしていたところも多かった。しかし、現代の自動車メーカーはいずれも大企業で、社長以下役員たちも、役員会や株主総会の決定に従う立場にあるケースが多い。つまり、経営状況、市場動向などによってレース活動は真っ先に大ナタを振るわれる弱い立場でしかないのだ。GMのモータースポーツ部長だったハーブ・フィッシェッルは、いかにGMの役員会と株主たちにレース活動の継続を促すか苦労したと語っている。そして、それには負けてもいけないが、勝ちすぎてもまたいけないというむずかしいものだったとしていたほどだ。
F1のチーム関係者やFIAのモズレー会長は、こうした自動車メーカーの移り気で、その場かぎりでかき回していくやりかたこそがうさんくさいとも感じている。
F1の原点は均質な車両での最強のドライバー選出
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そもそも最高のドライバーを選び出す競技として始まったF1にとって、自動車メーカーの参戦は諸刃の剣でもあった。
(C)Honda |
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歴史的に見ると、F1はもともと「世界ドライバーズ選手権」でコンストラクターズ選手権はおまけのような扱いだった。だから現在もドライバーズチャンピオンシップが優先されている。
世界一のドライバーを決めるには、均質なワンメイクの車両で戦うことが望ましい。だが、F1の規定ができた1940年代後半のヨーロッパは第2次大戦後の疲弊からまだ立ち直っておらず、技術的にも経済的にも均質な車両を多数そろえることが不可能だった。それで、フォーミュラ1という規定をつくり、できるかぎり均質な車両となるようにレギュレーションで車両規定をこまかく制限していた。これがF1のはじまりだった。
ところが、ルールには抜け穴が存在するのはどの時代でも常だった。そして、勝つために知恵を絞ったことで、さまざま技術が投入された。
しかし、60年代から70年代初頭までは、スポーツカーによるメイクス(メーカー)選手権のほうが豪華で、技術革新もより盛んだった。だが、その顛末は先に書いたとおり。
このメーカー選手権の隆盛のなか、F1では60年末から70年代にかけて自動車メーカーは相次いで抜けていった。主な原因は、公害問題が顕在化したことによる環境対策と石油ショックだった。この氷河期の時代を支えたのが、バーニー・エクレストンら現在のF1の重鎮たちだ。彼らは、あらたな科学技術を投入し、F1は技術革新の場というイメージをより強く押し出すことで、F1とチームのステイタスを高めた。こうして、現在のF1の姿ができ上がってきた。
つまり、F1の最初の理想は、最高のドライバーを選び出す競技として、均質な車両での戦いをすることだった。こうなると、現在のGP2、A1GP、フォーミュラニッポンは初期のF1の理想に近くなる。そして、メーカーがエンジン開発競争をくり広げ、チームが車体開発競争をくり広げる姿は、初期のF1の理想とは離れているものにもなる。
数年前からF1は追い抜きやバトルが減ってつまらないというファンの声が多くなった。FIAのモズレー会長もこれに対応せざるをえなくなったとき、きっとそのアタマの中にはF1の原点の理想像がうかんだのだろう。それが、2008年以後のエンジン凍結により性能の均質化や、まるでインディーカーかNASCARのような規制が多い車両規定案となったのだろう。
ホモロゲ騒動で噴出する陰謀のセオリー
こうした将来の枠組みについて考えるなかで、将来のF1の運営と主導権も重要になってくる。F1に参戦する主要自動車メーカーで構成されるGPMAは、より強い発言権と、透明性のある運営ということも要求に盛り込んできた。
現在のF1では、ルール決定や競技の運営はFIAが統括している。商業面、興行面の運営はバーニー・エクレストンが率いるFOMを中心としたフォーミュラワングループが統括している。ただし、このフォーミュラワングループは、現在CVCキャピタルパートナーズという投資会社の傘下にある。そして、エクレストンはそのなかで経営実務にあたっているということになる。
チームの立場はそれぞれで、自動車メーカーが株式の100%を所有して直接経営しているところ、自動車メーカーに部分的に株式を譲渡しているところ、完全に独立的な立場(買い手がつかないところも含めて)を維持しているところがある。
チームは、レースがあって存在意義がうまれるのでFIAとは密接な関係がある。興行面や商業面の分配金ももらえるという点では、FOMとの関係も密接だ。とくに古株のチームオーナーには、エクレストンが「ともに生き残ってきた仲間」という意識も根底に持っている。ただ、コンコルド協定の見直しのたびに、チームは分配金の増額などをめぐって「コップのなかの渦」のような小競り合いをしてきた。また今回のエンジン問題のように大きくルールが変わるときにも、FIAを巻き込んで主張権やチームに落ちる金額をふやそうとしてきた。
今回のエンジン問題を中心とした一連の動きのなかでも、いくつかの憶測が出ていた。
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FIAとGPMAは対立を装ってエクレストンの影響力を低下させようとしているという陰謀のセオリーも飛び出している。
(C)BMW |
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ひとつはFIAとGPMAとチームが、エクレストンとFOMを追い落とすために仕組んでいるというものだ。この説にはFOMなどを所有するCVCもかかわるという。CVCは債権を発行することでF1の運営のための資金調達がしたい。だが、現在の論争がつづく状況では債権発行もおぼつかない。論争が終息できないことで、CVCはエクレストンのパワー低下を見てとり、FIA、GPMA、チームらに動いたという。
一方では、FIA、チーム、CVCとFOMらが共同で、脱GPMA、脱自動車メーカーへの道も探っているのではないかという説もある。
だがこれらはまだ憶測とウワサの域をでないものばかりで、これからもまた興味をひくハナシが出てくるかもしれない。
共存共栄を目ざしてほしいF1
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ゲッシェルは7月にBMWの研究開発および購買担当取締役を退任。つまり死に体といえなくもない人物がGPMA議長であるわけだ。
(C)BMW |
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いずれにせよ、モータースポーツはFIAの活動の主要な柱のひとつであり、なかでもF1はその中心として残そうとするだろう。だからこそ、あるときは自動車メーカーをけん制しても、一方ではエネルギー回収動力の導入など自動車メーカーの参戦継続の道も提示している。
CVCにとっても一度多額の出資をしたうえ、EUの競争法に従ってMotoGPのドルナを手放した以上、本腰を入れてF1での利益回収をしたい。そのためにはエキスパート集団であるエクレストンとフォーミュラワングループの手腕に当分頼る必要がある。
チームの人たちは自分たちの生活場であり、自分たちの存在意義が見出せる唯一の場であるF1のレースを継続することにすべてをかけているといえる。タバコやアルコール製品の広告規制、自動車メーカー参戦の先行き不透明など、チームの将来の不安は多い。だが、これまでもチームは時代の変化に応じて変化してきたし、今後もチームは状況に応じて変化をしていくことで生き残ろうとするだろう。一時的には、肥大化した組織を一部縮小することはあっても、少しでも多くの才能ある仲間の職と生活を確保しようとするだろう。
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インディペンデントチームをも含めた共存共栄が、もっとも望ましいF1発展のシナリオだといえるのではないだろうか。
(C)MF1 |
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こうしてみると、NASCARは商業、興行、競技についてうまくバランスをとっているモデルケースといえる。自動車メーカー、とくにGMとフォードは、ひとり勝ちを許さないきびしい技術規制や性能規制を甘んじて受けても、レースを盛り上げることを優先してきた。そして、このきびしい規制によって技術コストも下げられたことで、各メーカーとも役員会や株主総会でのモータースポーツ活動廃止動議提案を逃れてもいる。
今後のF1はどうなるのか? 末永く、ファンにとっておもしろい展開がつづいてほしいものだ。F1のおもしろさや魅力が、はげしいバトルなのか、テクノロジーの戦いなのか、これらとは別のものなのかは、さらなる議論も必要だろう。だが、自動車メーカーには、参戦するからには長くかかわってほしい。そうすれば、ファンも必ずそのメーカーの製品を買うだろう。
「全員がハッピーになること」
アメリカのレース関係者がよく言うコトバだ。F1はこの意味をよく考えるべきではないだろうか?
*8月7日、FIA会長のマックス・モズレーとGPMA議長のブルクハルト・ゲッシェルらがニースで会談し、下記の合意がなされた。
1)エンジンのホモロゲーションは今季の中国GP時点に延ばされることになったかわりに、開発凍結は2007年に前倒しされ、2008年までの2年間実施されることになった。
2)最高回転数を19,000rpmまでチューンアップする以外のエンジン開発は認められない。
3)2009年からは新しいテクニカルレギュレーションを施行し、エネルギーの回生などの新技術をとり入れる。この新しいテクニカルレギュレーションは今年の12月31日までに発表される。
4)GPMAはワーキンググループを設け、将来のレギュレーションを検討していくが、F1はエネルギーの有効活用によってアドバンテージを得るという方向に転換される。パワーユニットがレシプロエンジンから変更される可能性もある。このワーキンググループには、FIAとGPMA以外のマニュファクチャラーも参加する。
ただし、現行のコンコルド協定下では、エンジンホモロゲーションの2007年前倒し導入のためには全会一致が必要。したがって、GPMA以外のマニュファクチャラーの反対がありうるし、インディペンデントチームが安価なエンジン供給を見返りとして求めることがおおいに考えられる状況だ。
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