OCNスポーツ Esporte OCN SportsChannel Esporte [エスポルテ]
HomeスポーツNEWS野球NEWSサッカーモータースポーツデジタルコンテンツゴルフ
[F1第5戦ヨーロッパGP]井出、シート喪失。“純日本”の危機
文:Second Wind 写真:SAF1 Date:2006.05.08
 ミハエル・シューマッハが連勝で完全復活をアピールしたヨーロッパGP。その陰で井出有治がレギュラードライバーのシートを失った。純日本を標榜したスーパーアグリだが、なにやら迷走の感がしないでもない。

 ヨーロッパGP直前の5月4日、スーパーアグリはFIA の「もっと経験を積ませるように」との“アドバイス”に従い、井出をテストドライバーに降格。週末のレースには当初、サードドライバーとして起用する予定だったフランク・モンタニーがセカンドドライバーとして出場した。

意に反して井出をレギュラーからはずす苦渋の決断をした亜久里代表。心なしかその表情も沈んだように見える。
(C)SAF1
 もともとARTA(Autobacs Racing Team Aguri)プロジェクトの一員だった井出は、昨季、フォーミュラニッポンでランキング2位。モバイルキャスト(今季、ウィリアムズのスポンサーでもある)のバックアップを受けマネジメント体制も充実し、「日本のトップドライバーがF1でどれだけ戦っていけるのか注目したい」という鈴木亜久里の抜擢でスーパーアグリのレギュラードライバーのシートを得た。

 しかし、参戦決定が1月26日、開幕戦が3月10日、わずか2ヵ月弱での突貫作業で誕生したチームには、もとより戦闘力は期待できなかった。SA05は4年落ちのアロウズA23をモデファイしたものだったし、なんとモノコックはメルボルン空港に展示してあったものや、所有者からのレンタル(シーズン後に返却するらしい)でまかなっていると聞く。テストは開幕前後ともごく限られたもので、しかも、車の信頼性を上げ、チームをできるだけ早く成長させるには、実績のある佐藤琢磨を優先するのが当然なので、井出にはレースウィーク以外、ほとんどまったく走行の機会が与えられなかった。ルーキーにとってこれは大きすぎるハンディであり、そのうえフランスF3(2002年)ぐらいしか海外でのレース経験がない彼は、F1の開催されるサーキットをまったく知らなかった。テールエンダーとなるのはまちがいない状況で、これは織り込みだったはずだ。

 ただ、琢磨とのラップタイムがほとんどすべてのセッションで2秒は違っていたことが、井出の能力に疑問符をつけることになった。ほかのドライバーとかなり異なるライン取りをする彼に、奇異の目を向けるドライバーも少なくなかった。序盤3戦のフライアウェイレースを終えた時点でサンマリノGP限りでシートを喪失するとの噂が広まり、一部ではさっそく山本左近がかわって出場するのではないかとの憶測さえあった。

ドライバー生命の危機に陥った井出
 ところが、チームはこうした報道を否定するどころか、井出への不満を口にしたのである。スーパーアグリのチームマネジャー、ダニエル・アウデットは井出が実力を発揮できる状態にないことを認めながらも、「セカンドドライバーは結果を出さなければならない。われわれは動くシケインなどと呼ばれたくないし、危険もつくり出したくないし、ほかのドライバーの問題にもなりたくないんだ。期待にこたえる走りをしてくれなければ(ドライバー交代という)結論を出さざるをえない。チームメイトより2秒も遅いドライバーなんて必要ない。正直なところ、クラッシュして車を壊すような事態に至らずほっとしているんだ」と突き放した。さらにごていねいなことに、井出の契約には“パフォーマンス条項”、つまり成績如何でシートをはく奪されるという条項があるということまでメディアに明らかにした。

 また、HRD(Honda Racing Development)社長の和田康裕は「(アンソニー・)デイヴィッドソンはレギュラーにふさわしいドライバーだと思っている。来年、スーパーアグリに彼を推薦するつもりだ」と話した。デイヴィッドソンの加入はオリジナルシャシーの開発という面でも期待大であり、正しい選択であろうが、メディアに露出したタイミングは井出にとっては最悪だった。

 こうしてプレッシャーのかかる状態で迎えたサンマリノGP。井出はオープニングラップでクリスチャン・アルバースと絡み、彼の車を横転させるという最悪の失態を演じてしまった。スチュワード(審査委員)の対応はけん責処分にとどまっており、スーパーアグリもニュルブルクリンクでどんなレースをするかで井出の処遇を決定する意向だった。しかし、ヨーロッパGPのレースウィークになってFIAは冒頭の“アドバイス”を行い、井出のF1への挑戦は事実上、終わってしまったのだ。

 この“アドバイス”は異例のものだ。過去、レギュレーション違反や危険行為で出場停止処分を受けたドライバーはいるが、いったんスーパーライセンス(F1参戦に必要)を発給されたあとで、経験不足を理由に出場を断念するように求められた例はなかった。亜久里は「チームはいままで彼がF1という新しい環境でうまくやっていけるように最善の配慮をしてきたし、また井出もいろいろとむずかしい環境のなか、とてもよくがんばっていた。チームとしては、シーズン前にもっときちんとテストをさせてあげたかった。今後に関しては早くF1のドライバーシートに復帰できるよう精一杯協力をしていきたい」とのコメントを出した。だが、能力不足の烙印を押されたに等しいこの仕打ちから井出を守ることはできなかった。井出はプライドを著しく傷つけられたのみならず、ドライバー生命さえ左右されかねない状況だと言っても過言ではない。さらに、フォーミュラニッポンもその顔に泥を塗られたともいえる。純日本チームを標榜し、日本のモータースポーツの活性化を掲げるのなら、井出の降格は得策でないし、放逐するにしてももっとデリカシーのある方法があったのではないか。それを避けられなかったとすれば、スーパーアグリのチームとしての見通しの甘さが指摘されよう。

 井出のあと釜は、山本左近や吉本大樹(BCNコンペティションからGP2に参戦。サンマリノGPのサポートレースとして行われたGP2のレース2で3位に入り、スーパーアグリは彼と面談したことを認めている)などの名がとりざたされているが、スーパーアグリの所期の目標は、今後、いっそう困難に直面することが危惧される。

 井出にはなんとしても捲土重来をはかってほしいが、その反面、猛省も必要ではないだろうか。辛口のアウデットだが、「体力的に不十分なままF1にきてしまったし、英語もほとんど話せないからエンジニアやメカニックとのコミュニケーションが完璧ではない」とドライビングだけでない課題を指摘している。もし井出が真に頂点を目ざしていたのなら、いつか来る日のことを信じて努力をしていなければならなかったし、チャンスにめぐりあったとき確実にモノにするのがプロというものだろう。

 いや、井出だけではない。すべての日本人ドライバーにいえることだ。スーパーアグリの誕生によって、日本人ドライバーとF1の距離はぐっと近くなった。前述のデイヴィッドソンや、インディカーシリーズとインディ500を制しながらチャンスのないダン・ウェルドン、CCWSを連覇しながらF1から見捨てられたセバスチャン・ブルデーなどを考えると、いまや日本人ドライバーのほうがぐっと有利なのだ。だが、幸運に甘んじているだけでは飛躍などありえないはずだ。もちろん、これは一般人にもあてはまるはず。この出来事を他山の石とできるかどうか。自戒を込めて、こう思う。

チームの基盤、純日本のコンセプトを維持できるのか
油圧系のトラブルでリタイアしたモンタニーだが、「思っていたよりずっと戦闘力があった」とSA05を評価した。
(C)SAF1
 それにしても気になるのは、アウデットが井出をおとしめるかのような発言をつづけたことに対し、亜久里がアウデットを牽制したという話を聞かないことだ。アウデットの発言は、純日本というチームのコンセプト、つまりオーナー、ドライバー、エンジン、タイヤだけでなく、スポンサーも日本企業であるということを傷つけかねないのに、なぜだろうか。アウデットがおろか者とは思えないだけに不可解なのだ。

 以下はあくまで想像にすぎないが、スーパーアグリのチームマネジメントは正しく機能しているのだろうか。スーパーアグリはARTAプロジェクトとメナード・エンジニアリング(アロウズのファクトリーを所有し、アウデットら元アロウズのスタッフが所属)の合体によってできたものだ。F1参戦を急ぐ亜久里がメナード・エンジニアリングを利用したのはうまい方法だったが、それはメナード・エンジニアリングにとっても同じ。亜久里が用意した資金がなければチームは誕生しなかったが、むしろチームが動き出したいま、アウデットらの「自分たちがいなければF1を戦っていくことはできない」と自負心は強いに違いない。亜久里もそれをわかっているから、いまのところ様子を見ているのではないか。

SA06が投入されれば1周3秒速くなるという。アロウズのおもかげはないという新車のデビューはフランスGPを予定。
(C)SAF1
 だが、スーパーアグリは亜久里あってのもの。チームの参戦コストを賄うためのスポンサー獲得のスキームは、純日本というコンセプトが存在しなければ成立しない。もし、今後、アウデットらが自己主張を強めていくようなら、チームは正しい方向を見失い、たちまち迷走することになるだろう。見当違いの憶測であればいいのだが……。

OCN Sports Esporteに掲載の写真、イラストレーションおよび記事の無断転載を禁じます。

BACKNUMBER
モータースポーツのトップへ
F1記事バックナンバー
WRC記事バックナンバー
MotoGP記事バックナンバー
その他のモータースポーツ記事バックナンバー


 
NTT Communications 著作権についてプライバシーポリシーNTTコミュニケーションズ

(c) NTT Communications All Rights Reserved