
あらためて、エクストリームアイロニングとは、厳しい自然環境下において、アイロンとアイロン台でもって、衣類にアイロンを掛けるというスポーツ!? だ。しかも、アイロン掛けを行う場所は、それもこれも到達するだけでも厳しい場所だらけ、岩肌にザイルひとつで宙づりになりながら、スキューバフル装備での海底、3000メートル級の山の山頂、激流でのカヌー上、水温4度の滝の中、スカイダイビングにおいての空中などなど、絶対条件は“極限下”という、一見単なるバカに見えがちな一発芸的ビジュアルではあるが、実はとんでもない代物……、エクストリームスポーツという言葉の意味をハードコアに貫いている究極のクロスオーヴァースポーツなのだ!!
常軌を逸する環境下での対応力に加えて、いかにして美しくシワをのばすかという芸術点も要求されるエクストリームアイロニング。厳しい状況を克服し、さらにその状況下でキレイにアイロン掛けをしたときに得られるという達成感は他のスポーツでは得られないパワーがあると語るエクストリームアイロニングジャパンの中心人物であり、自らも競技選手である松澤等氏に、同競技の魅力をエクストリームに紹介してもらったぞ!

そもそも、エクストリームアイロニングってどのような経緯で生まれたんですか?
「まず、発祥は1997年イングランドですね。フィル・ショウというクライマーがいましてね、その人が天気のいい日に外でね、家の裏庭でアイロン掛けしたのがきっかけです」
へ? フィルさんが外でアイロン掛けしただけで?
「気持ちよかったんでしょうね、その気持ちよさをもっとたくさんの人に感じてもらいたかったんでしょう。きっと、クライマーとしての山を征したときの達成感に似ていたんでしょう。そこに、シワをのばすという達成感がプラスされて、大きな達成感になったんですよ」
……。で、その達成感をスポーツとして人々に認知させようと?
「ですね、なのでもっと感じてほしいと思って彼はワールドツアーに出るんですよ」
いきなりワールドツアーですか!
「そしてね、ドイツのクライマーの方がその熱意とアイロ二ンイングの素晴らしさに共鳴して、これを世に知らしめるには競技化しなければということで、フィルさんを中心に、強引に世界大会を開催するんですよ」
世界大会! 早過ぎやしませんか?
「参加人数はもちろん全然ですね。たしか90人くらいだったそうです。しかもそのほとんどがその場のノリというか、競技の意義を度外視してるというか、95%はおふざけみたいな(苦笑)」
95%ってほぼ全員がおふざけじゃないですか!
「見た目は簡単に言うとバカの一発芸なんで(苦笑)でも今はその頃と比べて愛好者からも競技として認知されてますし、不定期ながらではありますけど、今でも世界大会も開催されてますけどね。ただ、競技人口はなかなか増えませんね」
まぁ、正直言いますけど、バカですよね。
「バカですよ、最近はないですけどボクも何度もやめようと思いましたし、ニュースで最初に見たときは『バカじゃないの?』って思いましたから。ただ、ボクはオーストラリアに住んでいたことがあるんですけど、その頃から日常的にアイロン掛けはしていて、しかも住んでいた家の人が外でアイロン掛けをする人たちだったんで、外でアイロンを掛けるという部分ではベースができていて、アイロン掛け自体も単純に好きだったんですよ、だからハマる土壌はあったというか」
実際、自分でもやってみようと思ったきっかけっていうのは?
「オーストラリアから日本に帰ってきたとき、アイロンがなかったんで買いにいったんですよ。そのアイロンを買う時期と、山に行こうと思ってたスケジュールがちょうど重なっていて、どうせ山に行くなら記念にボクもやってみようって軽い気持ちで、アイロン台とアイロンを持って山に登ったんですよ。もちろん、そのときはポーズだけやって記念撮影するぐらいの気持ちだったんで、電源とかは持っていかなかったんですけど、山頂でアイロン掛けのポーズをした瞬間、鳥肌が立っちゃったんですよね」
なんだ、この感動は!?と。
「はい。高揚感、満足感、達成感、そういうのがいっぺんに自分の中に入ってきて『これはもしかしたらホントにアイロン掛けをしたらスゴいんじゃないか?』って。で、徐々にではありますけど、エクストリームアイロニングを始めて、今に至るみたいな」
アイロン掛けだけにでも気持ちよさを感じることができるベースがあったのも要因ですね。
「その通りですね。そこが功を奏したと思います。エクストリームアイロニングは、アイロン掛けを日常的にしない人が山頂なんかでやっても、本当の達成感はわからないと思うんです。逆に、山なら山の経験があって、山の楽しさを理解できていないと、それも同じでだと思います。山の実力とアイロンの実力、このふたつが黄金比で融合されないことには、この感覚はわからないと思います。エクストリームアイロニングをやりたいって人がたまにいますけど、だったらまずはアイロン掛けから始めてくださいって言いたいですね。そこがベースです、間違いなく」

一風変わったシュチュエーションでアイロン掛けをするというバカなお遊びに思われがちなこのエクストリームアイロニングだが、それは100%間違いなのだ。エクストリームアイロニングを純粋なるスポーツとして楽しむには、強靭な肉体と、屈強な精神、そして周到な準備が必要不可欠。さらに、アイロン掛けというアクションに対するリスペクトと、アイロニングをする様々な環境に精通する能力と経験、その上ユーモアを理解し表現しうる高度なスキルが必要とされるのだ。

「競技としてやっている人は7人くらいですかね」
アイロニングの魅力ってどんなところですか?
「それはもうビジュアル的にシワがのびていくという気持ちよさと、これは冗談ではないんですけど、蒸気に乗って鼻を突く洗濯石けんの香り! なんだろうな、アロマテラピーなんですよ一種の」
アイロン掛けはアロマ!
「ですね。そういう癒しの効果は絶対にあると思います。で、そこに様々な場所、アイロニングをするシュチュエーションで得られる達成感、これも癒しですよね。たとえば、ビールが好きな人だったら家で飲むより外で飲んだ方が美味しいでしょ? 部屋でひとりで飲むより、ビヤガーデンでワイワイ飲んだ方が美味しいでしょ? エクストリームアイロニングも同じです。山頂でやったら気持ちいいという単純な理論です」
なるほど、なんとなくわかってきました。ちなみに、日本での競技人口ってどのくらいなんですか?
「アイロニングをいろんな場所でやっている人はたくさんいると思いますが、ちゃんと組織に登録されている方は15人くらいですね。その中でも、競技としてやっている人は7人くらいですかね」
うーん、ぶっちゃけかなりマイノリティですね。
「でも、ボクはそれでいいと思ってるんですよ。エクストリームアイロニングはね、ちゃんとした本道でもってやると、ケガするんですよ。見た目がバカなんで、その辺が隠れがちなんですけど、肉体的なポテンシャルがないとできません、断言できます」
松澤選手も実際にケガをされたりしたことも?
「ありますよ。エアスカイというジャンプしてアイロンを掛けるというアクロバティックな技があるんですけど、その練習中にやっちゃいましたね。より高い跳躍力を出す為にアイロン台の前にビールケースを置いて、ケースに飛び乗ってそこからさらにジャンプしようとしたんですけど、ケースに乗った瞬間、ケースが倒れてしまって頭から地面に落ちちゃって救急搬送されたんですよ」
うわぁ、意識を失ったんですか?
「おもいきり失いましたね。で、気付いたら病院のベットの上でしたね。で、ベットの横にはアイロン台とアイロンが置いてあって、その横にボクを不思議そうに眺める看護婦さんがいてという」
スゴい絵ですね(笑)
「自分で言うのもなんですが、かなりシュールな絵でしたね」
この人はなんで頭を打ったんだろうと(笑)
「『なんでこういうことになったんですか?』的な質問をされて『アイロンを掛けていて頭を打ちました』って。でも、まったく理解してくれなくてですねね、多分頭を打ったからこんなこと言ってるんだろうと思われてたと思います」
アハハハハ!(爆笑)
「最後まで理解してくれませんでしたね(苦笑)でもね、最近、動画共有サイトとかでエクストリームアイロニングみたいなことをしている人の動画をよく見かけますけど、そういうのはホントに止めてほしいんですよ。正しいルールやガイドラインを理解した上でならいいんですけど、正しくやってほしいです。アイロンは鋭利なものなので、ホントにケガしますよ、へたしたら死にます」
無闇にマネしないでほしいと。
「ですね。まぁ、簡単に言うと良識のある大人はこの世界に立ち入らないですよ」
アハハハハ!
「笑っちゃいますよね。でも、実際そういう大切な部分がユーモアに隠れてしまってますから危険なんですよ。おもしろそうに見えて実は危険、ボクらは肉体的な準備も万全にしてやっていますから」
実際にやってみるとキツいんですね。
「ハードコアですね(きっぱり)なので、エクストリームアイロニングジャパンに登録されている方って、みなさん何かのスポーツで日本代表とかになっていた人ばかりなんです。その上に、アイロン掛けを日常的にちゃんとやっている人」
それはマイノリティになってもしかたないハードルですね。
「ボクらの中でのスローガンというか、ことわざみたいなのがあって、それは『シワは罪』って言葉なんです」
「シワは罪」!
「はい。だから集まったときにシワシワの服を着ていたら警告1、2回目で退会です」
ストイックですね。では、エクストリームアイロニングをやっていると精神面でもシワのないキチンとした人間になれるということですかね?
「その通りですね。精神面はかなり鍛えられるスポーツだと思いますよ。よく聞こえれば“心のシワをのばす”という感じですかね。自分の襟を正しているという気持ちでやっていますから。なのでメンタル面はそうとう鍛えられますね」

現在、エクストリームアイロニングの活動はイングランドを本部とし、主にヨーロッパが中心で、アメリカ合衆国、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ共和国にも波及し、日本でも細々かつ地味ではあるが、熱い活動が爆発している。ちなみに、アジアで本格的に活動をしているのはエクストリームアイロニングジャパンのみだそうだ。
競技としてのエクストリームアイロニングは5種の種目に分かれている。代表種目はフリースタイルという種目で、1500メートルのコースの途中に5つのアイロン掛けポイントがあり、いかに上手にアイロン掛けをし美しくシワをのばしたか(技術点)、いかにエクストリームなアイロン掛けを魅せたか(芸術点)いかに早くゴールしたか(タイム)これらの総合点で優勝を争うのだ。他にも、アーバンスタイル(街でのアイロン掛け)ロッキースタイル(ロッククライミング時でのアイロン掛け)フォレストスタイル(森でのアイロン掛け)ウォータースタイル(川でのアイロン掛け)があり、それぞれに技術、芸術、柔軟な発想などが求められるのだ。

先ほども少し出ましたけど、練習ってどうされてるんですか?
「だいだい人のいない河川敷でやってますね。子どもとかがマネしちゃうと大変なことになっちゃいますから、人目につかない様にしています。アクロバティックな技はやはりストイックにやり込んででないと会得できないものばかりなんで」
例えばどんな技があるんですか?
「うーん、例えばショットガンっていう技があるんですけど、それはアイロン台に向かって走っていって、アイロン台の前でジャンプします。そのジャンプに合わせて、もうひとりの人間がアイロンをショットガンパスするんです。そのパスをエアキャッチしてアイロンを掛けるという」
アイロンをショットガンパスって、とんでもないですね。
「アイロンがとんでもないスピードで飛んできますからね、失敗すると確実にケガしますね。あとはですねぇ、ジャックナイフって技があるんですけど、それはアイロンの電源コードを持って振り回して、投げてみたいな」
危険極まりないですね。それらは全てオリジナル?
「そうですね。違うスポーツや引証的な映画のシーンとかからインスピレーションを貰って、上手くシワをのばせそうなものを選査して、技に組み込む感じで作ってますね。ただね、やはりそういうのをマジでやっている大人を見たらね、エクストリームアイロニングを知らない人には頭がおかしい人みたいに映るみたいで、いろいろ大変なこともありますけどね(苦笑)」
ちなみに、大変なことってどんな?
「近い話だと去年の暮れぐらいにですね、河川敷で練習していたら地元でならしてる高校生のワルみたいなのが5人くらいで『バカじゃねーの!』みたいな感じで絡んできましてね、最初は無視してたんですけど、あまりに非礼だったんでカチンときちゃいましててね『ケツの青いガキが何言ってんだ! いろいろ言うんだったらお母さんのお手伝いしてから言え!』って。じゃあ、もめちゃいましてね」
松澤選手の口撃も素晴らしすぎるんですが、その後どうなったんですか?
「全員、自転車ごと川に沈めてやりましたよ。ああいうのはね、水をかければ静かになるんです」
さすがですね!
「そういうのとは今後も少なからず戦っていかなくちゃいけない競技なんですよ。でもまぁ、そういう数奇な目に負けそうになって、バカバカしくなって、何度やめようと思ったことか(苦笑)」
なぜ思いとどまったんですか?
「そのバカバカしくてやめたくなる気持ちよりも大きい、多くの効果を感じてるからでしょうね。エクストリームアイロニングが自身にもたらす効果の大きさがカヴァーしてくれましたね。今じゃ、アイロン掛け自体も家事じゃなくてスポーツって感覚になってきてるんで、今はそういう気持ちになることはなくなりました」
アイロン掛け自体がスポーツですか。ただ、世間一般的にはアイロン掛けって家事の域をなかなか超えられてないですよね。
「アイロン掛け=家事という固定観念が邪魔してるのは事実ですよ。少なくともボクは、この競技を始めた6年前辺りから、アイロン掛け=家事という固定観念は捨ててますけどね。まぁ、競技を大きくしていくには目標ってものが必要で、エクストリームアイロニングの目標はオリンピックの正式種目なんですけど、やっている自分が言うのもなんですが、100%無理だと思います(きっぱり)」
アハハハハ! 可能性は?
「だって家事ですから、ゼロです(断言)」
松澤選手がそれを言っちゃおしまいですよ!
「何でも目標をもつことによって、それがモチベーションの維持に繋がりますから大事なことだと思いますけど、オリンピックは無理ですよ(笑)」
まぁ、正直ボクもそう思いますけどね。でも、エクストリームアイロニングはしっかりとした種目別みたいなのが確立してるじゃないですか?
「フリースタイル含めて5つの魅せ場がありますね。ひとつはロッキースタイルってやつで、ロッククライミングですね、次がウォータースタイルっていって川でやるもので、カヌーを使ったりいろんな自分のアイディアを川を舞台にやる。次がフォレストスタイル、これは森ですね。クライミング技術を使って木に登ってやってもいいし、森という舞台を使って何をやってもいい。で、最後にアーバンスタイルっていう町をシュチュエーションにして、町で何ができるかってもの。ただ、アーバンスタイルはエクストリームアイロニングジャパンの競技としてはやりますけど、それ以外ではやらないですね」
アーバンスタイルはなぜやらないんですか?
「イングランドの本部の感覚では“人に見られながらやる”みたいな認識があるんですけど、それを真に受けていた6年前くらいはもうめちゃくちゃやったんですよ。ラッシュ時の東京駅丸の内側の横断歩道とか、渋谷のスクランブル交差点の真ん中とか、MAXハードコアなシュチュエーションでやりまくったんですけど、なんの達成感もない、ただ恥ずかしいだけなんです。で、『これは違うな、スポーツとして考えるならやるべきではないな』って。三越のライオンの上にまたがってやったときに、生まれて始めて、この先も絶対ないと思うんですけど、警官に撃たれるかというシーンがありましたからね……、そこらへんから完全に線を引きましたね」
警官とも衝突しましたか!
「『なんでこんなところでアイロン掛けをしているんだ!』って、だから『ボクはいろんなところでアイロン掛けをすることをライフワークとしているんだ!』って、そんなくだらない押し問答が続くみたいなね。もうこれこそバカの一発芸なんで、3年半前くらいから大会以外は完全に封印しましたね(苦笑)」

「無意味な事、馬鹿げた事に全力で取り組む事は、実は精神衛生上非常に大切であると我々は考えています。それによって真面目で現実的な日常とのバランスがとれることもあるのではないでしょうか(EIJ公式HPより)」ーー。まさにOGが掲げるスローガンと合点万歳なエクストリームアイロニングの熱き意思にバカ負けなわけだが、ここまで読んでくれた奇特好きは、きっと『一度やってみたいな』なーんて思ったはずである、いや思ったにちがいない。アイロン掛けを愛する心に肉体的ポテンシャルが必要な競技ではあるが、もし初心者的見地で始めるとすれば、どんな用具を揃えればいいのかが気になるところ。松澤選手いわく、特に決まった用具があるわけではないとのことだが、オススメの用具をいくつかあるとのことなので、この章ではこれからアイロニングをはじめるという方のためのアドバイス、そして松澤選手が持つ異常なアイロン愛を読み取ってほしい。

100歩譲って、なにも心得がない初心者がエクストリームアイロニングを始めるとして、なにか正式なアイロンとかってあるんですか?
「正式用具っていうものはないんですけど、推奨しているアイロンはありますね。まぁ、基本的に家庭向けに売られているアイロンとアイロン台であればいいんですけど、競技者として一番オススメなのはパナソニックのNI-L800ですね」
まさか型番でくるとは思いませんでした!
「NI-L800はベストですね。大きさ、耐久性、コストパフォーマンス、スチームの出方までをすべて総合的に考えて。ただ、欲を言えばカラーがね……、男っぽいハードコアな色がないんですよ。パナソニックさんに電話して『ガンメタリックを出してくれ』って言ったんですけど、なさそうですね」
ガンメタのアイロン! “カッコいいですね。
「アイロンって商売になりにくいんですよ。へたしたら10年くらい同じのを使いますし、今でも布コードみたいなのを使ってる人も少なくないんですよ。だからそんなにモデルチェンジもしないし、カラーリングもあまり重要視されていないんですよね。あと、やはり家事っていう固定観念がありますから、女性が使用するという部分に重きを置いているわけで、パステルカラーだとかが多いんですよ」
パステルカラーはエクストリームでハードコアには遠いですね。
「黒すら少ないですからね。できればデジタル迷彩とか出てね、名前が『プレデター』とかってなったら最高なんですけどね!」
アハハハハ!
「森に置くとわからないみたいなね。ボクがエクストリームアイロニングをやっている理由の根底にあるのはですね、男にももっとアイロン掛けを知ってほしいって部分、男のアイロン掛けなんですよ。男の料理って言葉はけっこう定着していて、男が料理するのはカッコいいみたいになってるでしょ。ボクはね、男のアイロン掛けってのもそれに匹敵するカッコよさがあると思うんです。自分のシャツを自分でビシッとアイロニングするって男前だと思いません? 重くて無骨な男のアイロンを使って、ハードコアにアイロニングをする男。で、終わった後にプロテインを一気飲みみたいな」
プロテインはよくわかりませんが、たしかにカッコいい男像ですね。
「でしょ。ボクはエクストリームアイロニングを通して、そういう男のアイロン掛けを推奨したいんです。男っていうのはまだまだ市場的に伸びしろがあるんです。家電メーカーさんは大チャンスですよ! どこもアイロンで男なんてターゲットにしてないですからね」
「オレ、こんなピンクのアイロンなんて使いたくないよ」って男はきっとたくさんいますしね。
「そこをね、ボクはエクストリームアイロニングでもっていろんな分野で協調していきたいと思っているんです。例えば、そばの手打ちブースってあるじゃないですか。あれってなんだかカッコよかったりするでしょ。そんな感じでクリーニング屋さんのアイロン掛けもカッコいいというような状況にできればおもしろいじゃないですか。 それを変えたいし、そんな流れがあったらおもしろい!」
まったくもって素晴らしいですね! 海外でも同じ状況なんですかね?
「欧米ではあきらかに男を意識したアイロンが出てますね。例えばデロンギのアイロンはグリップがコルクだったりするんですよ、もうそれだけでカッコいいじゃないですか! ドイツのDBKのアイロンは、グリップが黒で、ボディがクロームのシルバー、しかも吸水口が宇宙戦艦ヤマトの波動砲みたいなんですよ」
それは男心をくすぐりますね!
「欧米は男向けのアイロンという部分ではけっこう進んでます。イギリスのモーフィーリチャーズっていう会社のコンフィグリップっていうモデルはデカくて重くて、日本で今出てるコードレスではないアイロンで一番パワーがあるんですよ。とにかくスチームがヤバいくて、四畳半の部屋でアイロン掛けしてたら『オレはせいろのなかの餃子か!』っていう状態になります」
スゴいパワーですね!
「パワーでいえばティファールのプロミニッツスチームジェネレーターってアイロンはもうとんでもないですよ。アイロン本体の他に母船があってですね、その母船でスチームを作って、太いスチームパイプでもってアイロンと繋がっていて、強烈なスチームを供給するというものスゴいヤツです。値段は家庭向けとは考えにくいエクストリームな値段ですけど」
それはハンパないですね! そうやっていろいろアイロンを試されてると、こんなアイロンがあったらいいのになとか思ったりしませんか?
「そりゃしますよ。時計でGショックってあるじゃないですか。あのポテンシャルを持つアイロンがあったらスゴいですよ。ルックスは無骨でデカくて男らしい、性能もスゴいし、耐久性には優れてて、コストパフォーマンスも良く、しかも完全防水じゃないですか」
Gアイロンなるものがあったら完璧だと?
「Gアイロンなんてあったら完璧ですよ。だからね、ボクはCASIOさんに『御社のGショックの技術をアイロンに応用できないか』って『試作はできないか?』ってかけあったことがあるんですよ」
ホントですか! で、CASIOからはどんな反応が?
「『そもそも当社ではアイロンは製産していません』ってピシャリと言われました(笑)」
アハハハハ!(爆笑)
「『技術的には可能』だって言ってましたけど、ただ問題はアイロンはかなりの電力を使うものですから、『蓄電式で考えるとかなりのリチウムが必要になるので、そのリチウムをどうするかが問題ですね』とも言ってましたね」
CASIO、親切ですね。
「まぁ『どこもやらないでしょうけどね』ってのもありましたけど(苦笑)」
Gアイロンなんてあったら絶対買いますけどね。ちなみに、競技のとき、アイロンの電源、熱源はどうされてるんですか?
「そこなんですよ、絶対的な基本が野外なんで熱源、電源を確保するのが大変なんですよ。蓄電式のでも、本体から離したらせいぜい2分くらいしかもたないんですよ。なのでだいたいは発電機を持っていくんですけど、25キロくらいあるんですよね。さすがに山頂とか崖とかに持っていくのはキツい。あと、発電機ってエンジンですよね、なので排気ガスとか出るじゃないですか、エクストリームアイロニングはエコにも力を入れているんで、エコ的によくなんですよ。なので、最近は直火ですね、アイロンを直火で温めてます」
なるほど、ではそんなにハイテクはいらないですよね、直火にも絶えうる耐久性のほうが。
「なので、突き詰めていくと時代とは逆行して、どんどん原始的になっていくんですよね。そこが難点です」
いろんな意味で大変なんですね。ちなみになんですけど、アイロン台の方は?
「アイロン台はですね、ボクは無印良品のものばかり使ってるんですけど、ことあるごとに様々なメディアで『無印良品のアイロン台は身長175センチまでの人が使うには世界最高峰の絶品』って言ってるんですけど、家電メーカーさんからはいろいろコンタクトをいただけてるんですけど、無印良品からのコンタクトは未だゼロですね(苦笑)」
黙認ですか(笑)
「『無印のアイロン台を買いました!』ってメッセージをホントにたくさん頂いてますし、絶対に貢献してると思うんですけどね。まぁとにかく、無印良品のスタンディングタイプのアイロン代はオススメです、世界最高峰ですよ!」

『究極の環境下でも平静でいられる鉄の平常心を身につけることができます(松澤選手)』ーー。厳しい自然環境、様々な極限状態の中に身を投じ、そこでさらにアイロン掛けを行うという究極のスポーツ、エクストリームアイロニング。一見ただのパフォーマンスに見えがちな競技だが、変ったことをして目立ちたいだとか、突飛なことをしてウケがほしいだとか、そういうおふざけ的なものでは決してないことをわかっていただけただろうか。ただの一発芸じゃない、そこには主目的になるスポーツが必ずあって、それらをさらに難しく、楽しくする為の味付け、エクストリームなチャレンジとしてアイロン掛けが取り入れられているのだ。
現在、エクストリームアイロニングジャパンのメンバーは全員20代〜30代のみで構成されているそうだ。一歩間違えば大怪我に繋がりかねないエクストリームスポーツなので、メンバーとして認められるのは、常日頃スポーツに真剣に取り組んでいる人のみとのこと。しかし、何もそんな人しかやってはいけないということでは決してない。『自分のハードルの高さを認識していて、自分でそれを超えるチャレンジができる人』であれば、是非挑戦してみてほしいと松澤選手は語っている。

今までで「これはキツかった」ってエピソードはありますか?
「ボクが始めた頃って、まぁ今もそういう風潮はあるんですけど、いかにあり得ない場所でアイロン掛けをやるかってことが重要視されていて、欧米のアイロニストからはなぜか水中でやらないと認めてもらえなかったんですよ。水中でアイロニングをやっているところを撮影して、それを本部に送って初めて『お前はエクストリームだ』と認定するという流れがあったんです。なので水中でやらざるを得なくて『よし、やってみようじゃないか』ってなったんですけど、水中じゃ電源や熱源は無理だし、まずシワがのびないという(苦笑)」
それをやんないと認めてくれないならやるしかないですよね(笑)
「バカバカしいけどやってみないことには始まらないので、船を出して相模湾に行ったんですよ。で、スキューバ装備で水深25メートルとかまでアイロン台とアイロンとシャツを持って潜ったんですけど、アイロン掛けの成立は100%不可能でしたね」
そりゃそうでしょうね(笑)
「まぁわかってはいたんですけど、机上の空論はイヤなんで。でね、長くやってると、これまた恐ろしいことにアイロン台の下に魚が根付くんですよ、住めそうだって感じで」
魚に取ってちょうどいい塩梅なんでしょうね。
「あれはいい風景でしたね。あと、水中でシャツをたたむ難しさはハンパないですよ。エクストリームシャツたたみですよ。アイロン掛けは成立しませんでしたけど、水中でシャツのボタンを閉じて、たたみきって、アイロン台の上に乗せたときの達成感はスゴかったですね。もしかしたらアイロン掛けよりも大きかったかも」
得ることは何もなくって感じですか?
「ありましたよ。エクストリームアイロニングの最終目標として掲げているのはチョモランマ、エベレストの山頂でアイロニングすることなんですけど、水圧を受けて嗜好が鈍る感じ、目を閉じているときの感触が5000メートル級の山の上にいる感覚だったんで、イメージトレーニングにはめちゃくちゃなりましたね。あと、これも水中なんですけど、とある水族館の水槽の中でもやったんですよ、魚が2万匹いる水槽で」
2万匹ですか!
「その中には毒を抜いてないエイとかもガンガンにいて、入る前に『死んでも訴えない』的な誓約書を書かされましたからね」
水族館の水槽の中では死にたくないですね。
「あと、水中でアイロニングするとあることが起こるということを学んだんですけど、猛毒を持つオニオコゼっていう魚がいるんですけど、アイロニングをすると怒り狂ううんですよ」
水中でアイロニングをするとオニオコゼの逆鱗に触れちゃうんですか(笑)
「もうね、必ずと言っていいほどオニオコゼが怒るんです。そこの水族館には何度も潜らせてもらってるんですが、毎回、絶対にオニオコゼが怒る、しかも追っかけ回されましたからね」
それはかなりの恐怖ですね。水中以外では?
「富士山の山頂ですね。最高点の剣ヶ峰ってところですね。あれは大変でしたね、発電機も持っていったんでトータルで荷物の重量が50キロ近いんですよ」
50キロの荷物を持って剣ヶ峰まで登ったんですか!
「初めてエクストリームアイロニングで感動して泣きましたからね。行程がが辛かった分感極まりましたね。日本の最高峰、これ以上高いところはないっていうのは考え深かったですね。ただ思ったのは、近くに観測所があって、昔は職員が常駐してたんですよ。建物も残ってるんです。でね、そこで思ったのは……、もしかしてやってたんじゃないかなと」
アハハハハ!(爆笑)
「富士山の山頂で日本初ってなってるんですけど『観測所の人、ここで普通にアイロンしてたかも……』って。そんな悲しい考えが浮かんできちゃって、感動もフワフワになっちゃって『 二番煎じもはなはだしいじゃねーか!』って」
たしかにやってた可能性は大ですね。
「まぁ、いいんですけどね。あと、番組でオードリーの春日くんと水温4℃の滝に打たれながらやったこともありますね」
おぉ、今をときめく大人気者じゃないですか。しかし、水温4℃!って 地獄過ぎやしませんか……。
「地獄ですよ! しかもふんどし一丁で(苦笑)あの春日くんは男気がありますね。ボクはさすがに絶えられなくて途中でダメでしたけど、春日くんは最後までやり通してましたからね。終わった後に『どうでした?』って聞いたら、『アイロン掛けをしているという気持ちでしかなかったんで、滝は全然気にならなかったですね。リビングルームでやってる感覚でした』って。彼は筋がありますね、アイロンも日常的にやってるみたいだし(笑)」

あらためて、エクストリームアイロニングというスポーツを今、どう思われてますか?
「まぁ、バカなことやってるなと思いますね。やってる最中もどこかで『オレって馬鹿だなあ』と思いつつやってます。でも、やはりこのスリルとバカバカしさの融合から生まれる達成感って他にないんですよ。なんだろうなぁ、ボクの中ではスポーツを通り越して“道”の域にきてますね。茶道とかそういう感じの」
道を究めるという世界に?
「エクストリームアイロニング道、究極のアイロン掛け道、そんな感じですね。もちろん、エクストリームな部分やハードコアな部分は残していきます、でないと世界と分かち合えないんで。でも、自分の中ではそういった独自の進化をしていけたらいいなって考えてますね」
今後、エクストリームアイロニングというスポーツが進んでいく状況はどうなっていくとお考えですか?
「まず、アイロン掛けという部分だけ取れば将来的になくなっていくと思うんですよ。だって、とてもアナログな作業じゃないですか、生地や繊維だって進化していくだろうし。そう考えるとエクストリームの本当の意味での未来はないんですけど、今あるうちは突き詰めたいですね」
聞いてるこっちが気持ちよくなるぐらいに楽しまれてますよね。
「楽しいですよ。なんだろう、開拓者的な楽しみもあるんですよ。スポーツなんて、どのジャンルもルールとか全部あるじゃないですか。でも、エクストリームアイロニングは自分の経験を積み上げたところで見えてくるものが、そのまま競技に組み込んでいけるんです。そのへんはもうかなり魅力ですし、楽しいですね。ただ……」
ただ!?
「カッコいいことばかり言っててアレなんですけど、アイロンがけが明日から禁止になれば、別にあんまり残念にも思わずにそのままアイロンを置きますね(笑)」
アハハハハ!(爆笑)
『いつの間にか、極限状態でも不思議と気持ちの静まるこのバカスポーツの虜になり、やっているうちにエクストリームアイロニスト化してしまったんですよね』と、自嘲気味に淡々と語る松澤選手。もしこの競技をやるならこれだけは守ってほしいことがあるという。

まずは安全が最優先!! 安易にマネしたりすると事故や怪我に繋がりかねない。また、許可が必要な場所では必ず許可を取り・周りの人を不愉快にさせるようなアイロニングは絶対に避けてほしいとのこと。エクストリームアイロニングジャパンに登録するアイロニストたちは、これらのルールは鉄則なのだそうだ。
最後に、なぜエクストリームアイロニングを続けるんですか?という質問を、あらためて松澤選手に投げかけてみた。返ってきた言葉はひとこと。